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2016.04.23 (Sat)

あなたを待っています-27-



「うお~、すごく綺麗だな……」
 息を呑む。
 遊園地と併合されたラベンダー畑に訪れた。閉館時間に近いという事で人があまりいない。橙色の光が交じり始めた夏空のキャンパスに不規則に並んだ山々と木々、そして紫色の絨毯が目の前に広がる。広大な自然。
 コンクリートのビルが立ち並ぶ都内とは大違いの景色。時間に縛られ、全てが人工的な都会に無意識に凝り固まった心が解れる。
 遠くで楽しげな声が聞こえる。きっとサークルメンバーの誰かだろう。
風がそよぐたびに心落ち着くラベンダーの香りが鼻孔を擽る。
「良い匂い……」
 大きく息を吸う。
「キャンドルよりも香りが良いですね」
「うわっ!? 淡雪っ!」
 背後から突然声が聞こえたので驚き声が裏返り、噎せる。
「そこまで驚かなくても良いでしょう」
 何度も咳き込む井草に淡雪は冷ややかに見つめる。
「一人なのか? 女子たちは?」
 ベンチで休んでから淡雪は再び女子たちに捕まり結局二人で話す事はなかった。それはラベンダー畑に来てもそうだ。ずっと女子たちが淡雪を取り囲んでいた。まるで甘い砂糖菓子に誘われ群がる蟻のようだった。
「逃げてきました」
「羨ましい奴め。俺も一度は言ってみたい」
「体験しない方が良いですよ。……と言う前に、そんな状況下になりませんよね」
「お前本当に失礼だよな! 俺一応お前の先輩だぞ! 労われっ、崇めろっ! 尊敬しろっ!」
「ありがたや」
 棒読みで手を合わせる淡雪に井草は睨みつける。
「嘘くさい! 嬉しくないっ!」
 数時間前に淡雪に弱いところを見せた事などなかったかのように、いつものような空気が流れる。その間をラベンダーの香りが漂う。発熱した淡雪のためにラベンダーのキャンドルを焚いた事を思い出す。
「……そう言えば、もう体調は大丈夫なのか?」
「ええ、すっかり」
「良かった……」
 満面の笑みを浮かべる井草を見て、淡雪は、はい、と手に持っていた物を目の前に見せる。
「……何?」
「見て分からないんですか? ソフトクリームです」
 淡雪はうっすらと紫色をしたソフトクリームを差し出す。
「ラベンダーが入っているらしいですよ」
 そう言って、はい、と強引に井草に渡すものだから、戸惑う井草は受け取らざるおえなかった。
「え……、いや、そういう事言っているんじゃなくて、どうして渡すのかって事で……」
「まだ礼をしていなかったので」
「でも俺言ったよ、山梨に来いって」
「あんなの貴方の意志じゃないでしょ」
「確かにそうだが……」
「もう何が良いか聞くの面倒なので、ソフトクリームにしました。黙って受け取って下さい」
「横暴だな」
 ふっと笑うと、井草はそこまでいう淡雪の言葉に甘える事にした。
 井草は渦を巻くソフトクリームを舐める。さっぱりとした甘味とラベンダーの香りが口いっぱいに広がる。
「美味しい。ありがとう」
 礼を言う井草に淡雪は視線を外し、ラベンダー畑を見つめる。
「食べる?」
 食べていたソフトクリームを淡雪に見せる。淡雪の瞳にはソフトクリームが映る。
「……いりません」
「そうか、こんなにも美味しいのに。後から欲しいって言ってもあげないからな」
 ソフトクリームを食べながら笑うと、淡雪は、言いません、ときっぱりと答える。それに井草はまた笑った。
「辺り一面ラベンダーって凄いな、綺麗だ」
「……そうですね」
「こんな沢山のラベンダーを見る機会ってないから感動する」
「…………」
 淡雪は黙り込む。
「……あるの?」
肯定の言葉が返って来ると思ったのに何も答えない淡雪に何気なく聞くと、淡雪は肩を窄めた。
「忘れました」
「なんだ、それ」
 井草はソフトクリームを食べ終えると、黙ってラベンダー畑を見る隣の人物を見る。
 じっと見つめる瞳は静かで、感情を読み取る事は出来ない。ただただ目の前に広がるラベンダー畑を見つめる。
 風が吹くと、淡雪の髪がさらりと靡く。
 井草は後ずさりをして、淡雪との距離を取る。
 そして両手の親指と人差し指を合わせて四角を作る。その中にラベンダー畑と淡雪の姿を捕える。
「……何をしているんですか?」
 怪訝そうに問いかける淡雪に井草はへへっと笑った。
「お前はラベンダー畑が似合うよ」
 繊細で落ち着いたラベンダーが数えきれない程植えられた紫色の畑に、ぽつんと立つ綺麗な顔立ちをした男が立つ姿は絵になる。
「真っ白な雪の世界も良いかもしれないが、紫の景色の方がお前は際立つ」
 淡雪は笑う井草をじっと見つめると、小馬鹿にしたようにふっと笑う。
「当たり前でしょ? 色男なんですから」
「調子のるなよ!」
 淡雪に近づく肩を殴る。するとわざとらしく痛い、と言うと、骨が折れただの、慰謝料払えだの淡雪が言うものだから、生意気な事をいう淡雪の肩にもう一発喰らわせた。
 こんな綺麗な場所で、こんな馬鹿馬鹿しい事をしている自分たちに笑えた。
 井草は声を上げて笑うと、淡雪も目を細めた。いつも小馬鹿にしたように笑う表情ではない、淡雪の心が垣間見える様な自然な笑みだった。
 距離が短くなったように思えた。その些細な出来事がとても嬉しかった。
 穏やかに流れる時間に添えるラベンダーの香りが心地よかった。




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