2016.04.30 (Sat)
あなたを待っています-29-
淡雪は全てを闇に包む夜を静かに見ていた。
夜が濃くなる程ネオンが鮮やかになる街を見つめる。胸から湧きあがるどす黒い焦燥と恐怖を持て余す。
夏が終わり、秋の季節が始まって数週間が過ぎた。肌寒い風が淡雪の白い頬を撫でる。
その中で携帯電話が着信を知らせる。物が乱雑する部屋で響く。数十回コールが響いても淡雪はそれを取らなかった。そして何度も何度も着信を知らせるも淡雪は取らず、ただ外を見つめる。
手の持っていたグラスの中の氷がカランと音を立てる。そして淡雪はウォッカをぐっと煽る。喉を焼くような熱いアルコールが流れる。胸がかっと熱くなるも、身体の芯は冷たい。
手が震える。それを止めるために目を瞑り、ぎゅっと手を握る。
真っ黒な景色の奥で、低く重い音が響く。そこからうっすらと白い景色が見えた。
「……ユキくん」
勝手に自分の白いワイシャツだけを来た名前の知らない女が隣にやって来た。誰だと、思考を巡らせると、昨日バーで飲んでいたら声をかけられた事を思い出した。そして寝たのだ。
「昨日は凄い激しくて驚いちゃった。綺麗な顔しているからお上品な感じかと思ったけど……。でもすっごく良かったよ、あんなの初めて。私達相性いいね」
甘えたようにしな女の言い方に嫌悪が湧きあがり、背後から抱きしめようとする女をスマートに避けながら、部屋に入った。
「どこ行くの?」
「どこだって良いだろ」
淡雪は寝室に戻ると、先程まで情事の痕を消す様にすぐに窓を開けた。クリアな空気が部屋に入って来る。服は乱雑に置かれ、シーツも乱れていた。そのベッドに腰掛けた。
この生活をして何日続いているだろう。仕事や学校も行かず、ただ部屋にいる。
だが夜は一人が耐えられず、時々外へ行き女を漁っている生活。
マネージャーからは何度か連絡はあったが、直接マンションに来ないのをみると母親が仕事の調節をしてくれているのだろう。穴が開くことを予想していたのだろう。でなければ無理にでも仕事に連れて行く。以前高熱が出ていても無理矢理仕事に連れて行かれたくらいだ。ああいう人だ。
自分の子供を仕事の道具としか見ていない母親。だからと言って悲しさや怒りなどない。そういうのはとうの昔に捨ててしまった。
なのに、この胸に湧きあがる黒い靄を拭い去ることが出来ない。蝕む焦燥が止まらない。
淡雪はサイドテーブルに置いてあったアロマキャンドルに視線を向けた。
仄かにラベンダーの香りがした気がした。
呑気な顔や不貞腐れたように己を呼ぶ声がうっすらと思い出される。
それだけで、心を温かくなる。
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