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2016.05.20 (Fri)

あなたを待っています-37-




 そこは真っ白い雪に覆われた場所だった。それ以外は何もない寂しい場所。
 朝から降っていた雪は強くなり始め、雪が音を吸う。風の音だけが響く。
 足首まで積もった雪を踏むたびに、転びそうになるも必死に足を進めた。
 こんな辺鄙な所に何故いるのか、と思うと肝が冷えた。最悪な予想が頭に過る。

「淡雪――……っ! どこにいるんだ!」

 勢いよく降る雪に呑み込まれないように大きな声を叫ぶ。何度も名を呼ぶ。
 すると雪の積もった場所で、何かが倒れているのが見えた。それを見て息が詰まった。
 よく見ると、それは人だった。人が倒れていた。
 井草は慌てて近寄り、名を呼ぶ。

「あわゆき――……っ!」
 倒れている人はやはり淡雪だった。淡雪は目を閉じ、倒れていた。白い肌に雪が少しだけ落ち、色白さが際立つ。

「淡雪! 早まるなっ! 死ぬなっ! 死んでも何にもならないぞっ!」
 淡雪の身体を揺さ振りながら必死に叫ぶ。

 (目を開けてくれっ! 死なないでくれっ! 死んだら嫌だ――……っ!)
 そこまで淡雪が思いつめていたのか。死んでしまいたいと思うほど辛かったのか。気づかなかった自分に苛立つ。
 自然と涙が溢れてきた。
 冷たい胸に顔を埋め、祈る。
 目を覚ませ。死ぬな。

「…………先輩、何してるんですか?」
 すると、低くて甘い声が聞こえた。
 井草は顔を上げると、淡雪の青い瞳が目を開き、井草の姿を映す。その当たり前の事が嬉しくて淡雪を抱きしめて泣く。
「心配させるなっ! バカヤロウっ!」
 鼓動の音が聞こえる。嬉しい。
「何で泣いているんですか? 大丈夫ですか、頭?」
「おまえーっ! 人を心配させてよくそんな事言えるなぁっ! そんな事言う口はこれか! この口かっ!」
 井草は淡雪の頬を引っ張る。すると淡雪は心底嫌そうに目を細めると井草の手を退けた。
 そのいつもと他愛のないやり取りに、井草は胸が熱くなった。
「……本当に、良かった……っ」
 井草は再び淡雪の胸に頭を埋めた。
 鼓動の音が規則的に聞こえる。温かい体温を感じる。それだけで暑い目がしらから再び涙が流れた。
「お前が死んだと思って、心臓が止ったんだぞ……っ」
 目の前の温もりがなくなって、もう青い瞳を見ることが出来ないと思った。もう悪態つかれることもないのかと思うとたまらなくなった。身体が冷えた。
「お前がお祖母ちゃんを追って死んだのかと思って……っ」
 閉じた目尻から熱い涙がとめどなく流れてくる。淡雪の服を濡らす。ぎゅっと両手で淡雪の服を握った。その弱弱しい井草を静かに見ていた淡雪は、ため息交じりの声を出した。
「勘違いしないで下さい。後追い自殺なんてしませんよ」
 井草は顔を上げ、淡雪をじっと見た。

「……ただ、リセットしたくてここに来ただけです」
 雪が降る静かな空間に淡雪の声が落とす。
「祖母を忘れるとかそういうんじゃないですけど、全てを受け入れてスタートするために来たんです」
 少し遠い目をした淡雪は、淡々と答えた。
「でもこんな場所でする事ないだろ」
「まあ、そうですけど……。でも、ここは思い出の場所なので」
 大きくなった雪が二人の間に落ちる。
「……六歳の頃、もう二度と祖母に会えないと母から言われ、それが死ぬ程嫌で、家を逃げ出して……その時に、ふと、思ったんです。だったら死のうって。それで来た場所がここ。……まあ、結局死ねらなかったんですけどね」
 他人事のように話す淡雪に、喉がぞわりと嫌な熱が疼く。
 淡雪がどんな幼少期を過ごしてきたかなんて、淡雪の祖母が話してくれた断片的な話で推測するしか出来ない。淡雪は一切話さない。だから想像する事が出来ない。
 それがもどかしい。戻れるのなら、あの時の淡雪を抱きしめて、全てを包み込みたいと思う。今している様に強く抱きしめたい。
「……先輩……」
 ぽつりと、言葉を発した。

「……俺、祖母が死んで泣きたいほど悲しいのに、涙が出ません……。苦しいのにな――……。薄情な孫なんですかね」
 感情が乗らない言葉を発する。
 頭上から降りつづける言葉が小さな言葉を吸収する。
「泣くことがおばあちゃん孝行じゃないぞ。短い時間を大切に過ごして、最期を看取ってくれた事がおばあちゃん孝行なんだからな」
 淡雪は、淡雪の祖母の事をとても大切に思っている。それだけは分かる。だから倒れたと聞いて自暴自棄になった。久しぶりに会った淡雪の祖母を見て、発した声が震えていた。最期の時、抱きしめた指の先が氷のように白くなっていた。それは全て、大切だからだ。
 そんな人が最期まで傍にいたのだ。幸せに思わない身内はいないだろう。
 淡雪は小さく頷いた。
「……そうですね。先輩がいなかったら、祖母の最期を看取る事なんて出来なかった。ありがとうございます」
「先輩なんだから当然だ。甘えなさい」
「偉いですね」
「実際お前より偉いからな」
 そう言うと、淡雪は小さく笑った。
「ここ、夏になったらラベンダー畑になるんですよ。知っていましたか?」
「へー、そうなんだ。知らなかった」
「次、一緒に来ましょう。祖母が好きだったんですよ」
「ああ、行こう」
 快く頷いた。
 白銀の世界に覆われたような冷たい静謐が流れていた空間が、春風に包まれたように穏やかになる。

「……先輩は先に帰って下さい。俺は色々とやらないといけない事があるので」
「一人で大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
 心配げに問いかける井草に、淡雪は当然と言うかのような口調で頷いた。その瞳には雲一つない快晴の色をしていた。
「分かった、待っているからな」
 井草は冷たさで赤くなった頬を緩めて笑った。
「先輩……」
 落ち着いた淡雪の声。
 淡雪がじっと見つめる。目が離せなかった。
 そして淡雪は片手で井草の後頭部を押す。自然と唇が触れる。
 二人に、雪がはらはらと落ちる。
 二人だけの世界。
 唇が離れ、淡雪と目が合う。

「眠る白雪姫にキス、だな」
 井草はくすっと笑うと、淡雪は不服そうに柳眉を顰めた。
「姫じゃないですけど。むしろ、王子でしょ」
「自分で言うな」
 淡雪にデコピンする。
 そして井草は立ち上がると、上半身をやっと起こした淡雪に手を差し出した。
「戻ろう」





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