2016.05.22 (Sun)
あなたを待っています-38-
Ⅶ
「最近、淡雪くん見ないね」
大学の食堂のテラスで同じサークルでよく連む東郷と羽場、そして望月と一緒に食事をしていた。そんな時に、緩いパーマをかけたアイドル好きの望月が口を開いた。
それに赤い口紅を塗りたくった東郷と、耳たぶが重力で落ちるくらい重そうなゴールドのピアスをした羽場が頷いた。
「見ないよね。聞いた話では、身内が亡くなったとかで実家に帰っているみたいよ」
「そうなんだ。大変だね」
そう言えば実家ってどこなの、やっぱりロシアなのかな?などと女子達が楽しそうに話している中、井草はもくもくとレタスとハムが入ったサンドウィッチを食べる。
「ねえ、井草。淡雪くんいつ帰って来るの?」
レモンイエローの派手なマニキュアを塗った指で井草を指す。指すなよ、と思いながらもそれを口にはしなかった。
「あ……、もう帰って来るんじゃないか?」
咀嚼をしながら答えると、女子達は溜め息を付いた。
「早く会いたいな……。大分会っていないから寂しい」
「早く王子様と会って、癒されたい~! 拝みたいっ」
「イケメンを近くで見ないと心が枯れてしまうっ」
寂しい、会いたいと口々に女子達を見ながら、サンドウィッチを食べる。
女子達は二週間近く会っていない。だからそう思うのは分かる。
だが自分はどうだ。
淡雪と離れて五日しか経っていないのに、気になっている。
あれから連絡はない。メールも着信もない。毎日毎日、連絡を待っている。だからいつも目に入るところに携帯電話を置いている。
井草は手元に置いている携帯電話をちらっ、と見た。
ディスプレイに淡雪の名前が出てくるのを待っている。
「というか、井草……」
望月はテーブルに腕を置き、片手に頭を乗せながら井草をじっと見た。
「……これ自分で作ったの?」
井草が持っているサンドウィッチを見ながら、東郷は赤い唇を尖らせながら問うてきた。
「そう、節約の為に作った。ちょっとお金使い過ぎてさ」
井草は苦笑しながら、頷いた。
「いつも買い弁の井草にしては珍しいなと思った」
「あんたお菓子買いすぎなんじゃないの? いつも持っているから」
東郷の台詞に羽場は頷く。
「違うし! まあ、ちょっとな……」
淡雪と北海道へ行った為、お金がなかった。淡雪は「自分の用事で無理矢理連れてきたのだからお金は全て払う」と言っていたが、それは辞退した。自分が決めて、淡雪と一緒に行ったのだから払って貰うのは何か嫌だった。
だがその所為でお金はすっかり無くなり、節約生活に突入した。
(自分で決めたから別に良いんだけど)
そんな事を思いながらまたサンドウィッチを一口食べようとした時、サンドウィッチを持っていた腕が誰かによって掴まれた。
「えっ……」
井草は驚き、振り返ると、そこには見覚えのある人物が立っていた。
「淡雪!?」
「淡雪くんっ!」
久しい男の突然の登場に井草たちは驚く。
いつもと変わらない涼しく、輝きのある雰囲気を醸し出しながら立つ。
淡雪は自然の流れで井草の腕を上げ、手に持っていたサンドウィッチを一口食べた。
井草は突然の登場に驚くあまり、言葉を紡げずにいた。
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