2008.11.09 (Sun)
秘する心情−41−
「・・・宏兄、上の空だね。俺の話聞いている?」
目の前にいる増永にそう言われて、南条は我に返った。
自分では気付かなかったが、いつの間にかぼけっとしていたようだった。
「そんな事ないよ。ちゃんと聞いている」
南条は笑いながら、両手に持っていたフォークとナイフを止め、否定した。
増永の話は聞いていた。だが、それは全ての話を聞いていたのではなく、所々の話だけだ。そんな南条を見破ってか、信用していないような表情で増永は眉を顰めむすっとする。
「・・・さっきの人のこと気になってるんじゃないの?」
その言葉に南条は何か胸に蟠りのような、引っかかりを覚えた。
さっきの事の出来事を気にしていないと言えば、嘘になる。
早乙女の去った後、一体自分が今どうしたらいいのか分からなかった。いや、身体は早乙女を追いかけたかったが、冷静な自分がそれを止めた。
理性が、追いかけて何をするのだ、追いかけて何になるのだと自分に問いかける。だから早乙女を追いかけることをしなかった。
何故早乙女を何故引きとめようとしているのか、自分自身に聞いてみたが分からない。何故気になってしょうがないのか考えるが、はっきりとした答えが見えてこない。
だが、それだけははっきりしていた。
名取と一緒にいた時、胸の奥深くにある黒い部分が疼き湧き出そうになったのは、はっきりとわかる。名取との関係をはぐらかすような言葉に、得体の知れない焦燥感や憤懣を覚えた。
南条は小さくなる早乙女の背中を見るしか出来なかった。早乙女の背が何だか切なく思え、胸がちりちりと痛いと思っているのは、きっと気のせいだ。
その理解できない感情を持て余していると、名取は残念そうな表情をすると肩を竦めて笑った。
『これ以上こんな所にいても、面白いことないから帰るよ』
『・・智久・・・』
その言葉に我に返ると、南条は冷たくひしひしと怒りを感じる声音で名取を止めた。
『早乙女を傷つけることはしていないだろうな・・・?』
南条は名取の方へ顔を向けると、じっと名取の顔を見た。
外面はとても良く、他人には笑顔で接し人を包み癒すような穏和な好青年のように見えるが、裏では人を蔑み思ったことをずばずばと直球で言い、人の屈辱的な表情や悲嘆に暮れる顔が好きな性格の歪んだ男。だがそんな裏表が激しい人間の性格を知っているのは、きっと南条と増永ぐらいで、後は名取の性格を知らない。
名取は知らない人物には外面を作り良い人を装うから、早乙女に危害を与える確率は低い。だが、もし早乙女が南条の秘書とわかり接していたのだったら・・・・、そう思ったら聞かずにはいられなかった。
もし早乙女が名取によって傷つけられたり、痛めつけられたりしたら、そう考えただけで憤怒の念を覚える。
名取はそんな南条の心情を見透かしてか、首を傾げ裏のありそうな笑みを作った。
『何言っているんですか?・・・俺は逆にあの人の話を聞いて癒してあげたんですよ。傷ついているはずないでしょう』
そう言って、名取はその場を去った。
そしてその後、増永と一緒に食事をして今の状況に至る。
「どうしてそう思うんだ?」
ぼんやりとしているつもりはなかったが、いつの間にか無意識に早乙女や名取の言葉が本当であるのかと考え、早乙女をそのまま見送ってしまった後から襲ってきた焦燥感や消沈した気持ちがなんであるか考えていたからかもしれない。
だがそんな自分を隠すように、南条は笑って誤魔化した。
しかし何十年も一緒にいた幼なじみには、誤魔化したような笑みは効かず、増永はため息をついた。
「あの後から顔色が冴えないから・・・・・。別に無理して一緒にご飯食べに行かなくても良かったんだけど・・・」
「無理なんてしてないよ。秀樹と久々に食事できて嬉しいよ」
それは嘘ではない。増永とはゆっくりと食事する機会がなかったから、こういう時間は素直に嬉しい。そうであるはずなのに、心はどこかへ言っているような気分は何故か。目の前にいる増永ではない人物の事を考えている。
そう、早乙女の事を。
早乙女にもプライベートはあるのだから、別に名取の一緒に飲みに行ったことがあったとしても責めることも出来ないし、口答えする義理はない。だが名取が早乙女を傷つけていないか、最悪な事態を想定してしまうと居ても立ってもいられない。
目の前にいる増永にそう言われて、南条は我に返った。
自分では気付かなかったが、いつの間にかぼけっとしていたようだった。
「そんな事ないよ。ちゃんと聞いている」
南条は笑いながら、両手に持っていたフォークとナイフを止め、否定した。
増永の話は聞いていた。だが、それは全ての話を聞いていたのではなく、所々の話だけだ。そんな南条を見破ってか、信用していないような表情で増永は眉を顰めむすっとする。
「・・・さっきの人のこと気になってるんじゃないの?」
その言葉に南条は何か胸に蟠りのような、引っかかりを覚えた。
さっきの事の出来事を気にしていないと言えば、嘘になる。
早乙女の去った後、一体自分が今どうしたらいいのか分からなかった。いや、身体は早乙女を追いかけたかったが、冷静な自分がそれを止めた。
理性が、追いかけて何をするのだ、追いかけて何になるのだと自分に問いかける。だから早乙女を追いかけることをしなかった。
何故早乙女を何故引きとめようとしているのか、自分自身に聞いてみたが分からない。何故気になってしょうがないのか考えるが、はっきりとした答えが見えてこない。
だが、それだけははっきりしていた。
名取と一緒にいた時、胸の奥深くにある黒い部分が疼き湧き出そうになったのは、はっきりとわかる。名取との関係をはぐらかすような言葉に、得体の知れない焦燥感や憤懣を覚えた。
南条は小さくなる早乙女の背中を見るしか出来なかった。早乙女の背が何だか切なく思え、胸がちりちりと痛いと思っているのは、きっと気のせいだ。
その理解できない感情を持て余していると、名取は残念そうな表情をすると肩を竦めて笑った。
『これ以上こんな所にいても、面白いことないから帰るよ』
『・・智久・・・』
その言葉に我に返ると、南条は冷たくひしひしと怒りを感じる声音で名取を止めた。
『早乙女を傷つけることはしていないだろうな・・・?』
南条は名取の方へ顔を向けると、じっと名取の顔を見た。
外面はとても良く、他人には笑顔で接し人を包み癒すような穏和な好青年のように見えるが、裏では人を蔑み思ったことをずばずばと直球で言い、人の屈辱的な表情や悲嘆に暮れる顔が好きな性格の歪んだ男。だがそんな裏表が激しい人間の性格を知っているのは、きっと南条と増永ぐらいで、後は名取の性格を知らない。
名取は知らない人物には外面を作り良い人を装うから、早乙女に危害を与える確率は低い。だが、もし早乙女が南条の秘書とわかり接していたのだったら・・・・、そう思ったら聞かずにはいられなかった。
もし早乙女が名取によって傷つけられたり、痛めつけられたりしたら、そう考えただけで憤怒の念を覚える。
名取はそんな南条の心情を見透かしてか、首を傾げ裏のありそうな笑みを作った。
『何言っているんですか?・・・俺は逆にあの人の話を聞いて癒してあげたんですよ。傷ついているはずないでしょう』
そう言って、名取はその場を去った。
そしてその後、増永と一緒に食事をして今の状況に至る。
「どうしてそう思うんだ?」
ぼんやりとしているつもりはなかったが、いつの間にか無意識に早乙女や名取の言葉が本当であるのかと考え、早乙女をそのまま見送ってしまった後から襲ってきた焦燥感や消沈した気持ちがなんであるか考えていたからかもしれない。
だがそんな自分を隠すように、南条は笑って誤魔化した。
しかし何十年も一緒にいた幼なじみには、誤魔化したような笑みは効かず、増永はため息をついた。
「あの後から顔色が冴えないから・・・・・。別に無理して一緒にご飯食べに行かなくても良かったんだけど・・・」
「無理なんてしてないよ。秀樹と久々に食事できて嬉しいよ」
それは嘘ではない。増永とはゆっくりと食事する機会がなかったから、こういう時間は素直に嬉しい。そうであるはずなのに、心はどこかへ言っているような気分は何故か。目の前にいる増永ではない人物の事を考えている。
そう、早乙女の事を。
早乙女にもプライベートはあるのだから、別に名取の一緒に飲みに行ったことがあったとしても責めることも出来ないし、口答えする義理はない。だが名取が早乙女を傷つけていないか、最悪な事態を想定してしまうと居ても立ってもいられない。
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